まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

君塚直隆「ヴィクトリア女王 大英帝国の“戦う女王“」中央公論新社(中公新書)

行き帰りの電車の中でさっと読み終わってしまいました。

 

在位年数64年、18歳で即位し、死去したのが20世紀最初の年という、19世紀の「大英帝国」に君臨した女王ヴィクトリアの生涯を綴った一冊です。彼女の時代についてはイギリスの国王は「君臨すれども統治せず」の原則下、政治は議会が中心で国王はあまり重要でないようなイメージを持っている方が多いと思われます。しかし長い治世を見ていくと、彼女は必ずしも議会で活動する政治家の言いなりになっていたわけではなく、時には激しく対立することもあったようです。本書では、「君主」としてヴィクトリア女王が64年という長い治世を通じて老練な政党政治家たちと渡り合い、大英帝国の拡大と繁栄を第一に考え、時としてかなり強硬な外交姿勢をとる様子を描いていきます。

 

「君主」として大英帝国の拡大と維持をはかること、国際的地位を維持することに腐心し、意に添わぬ政治家とはかなり険悪な関係になったり(グラッドストンに対する冷たい態度)、決して「君臨すれども統治せず」という国王ではないですね。この時代のイギリスのどの政治家よりも帝国主義的な人ではないでしょうか。

 

著者は女王がグラッドストンを嫌うようになった理由の説明で女王の人間観に影響を与えた夫君アルバート公の死をあげていますが(アルバート公グラッドストンを高く評価する一方、女王お気に入りとなるディズレーリに対する評価は低かった)、彼が生きていたとしても、遅かれ早かれ女王とグラッドストンは険悪な関係になっていたのではないかと思われます。

 

  • 議会政治の国イギリスの女王とはいっても、彼女が頼りにする政治家たちの多くは貴族政治家です。また、彼女自身は二大政党政治というものを余りよく思っていないふしがあり(2大政党が対立しているとき、他の人に第3極を作ってみてはといったりしてます)、なにより議会政治はわかっても議会制「民主政治」には馴染めない感じの人です。一方のグラッドストンは大衆民主政治へとイギリスの歩みを変えていった人物であり、しかも議会政治の本道は下院であり最後まで爵位授与を拒みつづけているくらいですから、どうやっても彼女が頼りにするようなタイプの政治家にはなりそうもありません。結局女王にとってグラッドストンは最後の最後まで「自分たちとは違う世界の人」でしかなかったのではないでしょうか。