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伊東俊太郎「近代科学の源流」中央公論新社(中公文庫)

17世紀の近代科学革命以前の西欧科学史というと、古代ギリシア・ローマの自然科学に関してちょこっとみた後、科学に関する話はほとんど無く、ルネサンスの頃になってようやく出てくるという形で習ったり覚えたりした人もいるのではないかと思われます。最近でこそ、イスラムの科学や12世紀ルネサンスなども注目されるようになってきましたが、12世紀ルネサンス以前の中世ラテン科学のように「科学」としてはあまり注目されていない事柄も存在しています。

 

また、中世の自然科学と近代科学革命の関係についても、近代科学革命の成果を強調するあまり、中世の自然科学と近代科学革命は断絶しており、中世の成果は全く関係ないように思われているところもあるのではないでしょうか。世界史の教科書を見ても、中世ヨーロッパ文化史の項目で自然科学についてはあまり取り上げられていませんが、科学発展の歴史の中で中世の自然科学はたいした価値のない物と見なされているのかもしれません。

 

しかし、それでは自然科学については何も無い中世ラテン世界にいきなりイスラムを介して科学思想が流入して、それがそのまま果たしてうまく定着する物なのでしょうか。本書は古代自然科学から12世紀ルネサンスまでの間隙を埋め合わせるとともに、中世自然科学と近代科学革命の間にどのような関係があったのかを考察していきます。

 

ローマ時代の科学やアラビア科学、12世紀ルネッサンスのような最近になってかなり扱いが大きくなったところのみならず、ビザンツの科学(ビザンツにおいて、古代の文献が継承されていたことはしられていますが、医学書の編纂や数学関係の書籍が色々残されています)、中世ラテン科学(アウグスティヌスなどキリスト教教父がどのように自然を見ていたのか、ボエティウスやイシドロス、ベーダなどの編纂活動の様子がどうだったのか)といったことはあまり知られていないので、そう言うところを詳しく扱った本書は非常に有益でしょう。