まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

小林義廣「王安石 北宋の孤高の改革者」山川出版社(世界史リブレット人)

王安石というと、世界史の教科書でも新法の実施者としてその名は必ず登場する人物です。本書は前半で王安石の生涯についてまとめ、後半で彼が実施した新法 の概要、その目標(官界の綱紀粛正・気風刷新、富国強兵)、新法に対する反対意見と王安石の関係、国家論と輿論、後の世の評価といったことがまとめられて います。

王安石の新法というと中小農民や商工業者に有利な政策を実施し、大地主や大商人の支持を集める官僚達と対立し、それが新法と旧法の対立に到ったという説明 が教科書などでは見られます。しかし実際にはそれ程単純な対立関係にまとめられるものではないようです。王安石を推挙した人々は大地主の利害を代表するよ うな名門一族であるいっぽう、王安石の実の弟たちは新法に反対していたと言うことですので、それ程簡単には割り切れないものもあるのかもしれません。

また、王安石以前の政治家達が手をこまねいて国家財政の悪化という状況を眺めていたというわけではなく、「慶暦の新政」とよばれる改革があり、人事の刷新 や人材育成・登用などを改めようとしたことが知られています。そして、王安石の新法は慶暦の新政もふくめたそれまでの宋の政治を乗り越えようとするもの だったというようです。

本書では王安石の新法についてもきちんとまとめていますが、それまでの政治との関係で言うと、特に、王安石と「輿論」の関係について1章を割いて説明して いる所、そして王安石の国家間に関する部分が面白かったです。輿論に基づき、君主の恣意性に基づかない政治を行おうとしたそれまでの政治とは一変し、輿論 を軽視し道理や合理性を求める政治が行われていきますが、王安石の政治姿勢は君主の役割をかなり重視する姿勢だったようです。

しかしそれは王安石に限ったことでなく、彼と対立した司馬光もまた君主の役割を重視する姿勢に立っていて、彼らの政治姿勢は根っこの部分では相通じるもの があったようです。王安石司馬光はのちに激しく対立し、王安石引退後に政権を取った司馬光は次々に新法を廃止していくのですが、財政政策に関してはは相 容れるものが無く、それが対立につながったともいわれています。財政政策だけでなく、両者の間では何を行うべきかと言うことについても認識にずれはかなり あったのではないかと思います。適材低所・信賞必罰で何とかなると思っていたふしのある司馬光と、官界の気風刷新・綱紀粛正も必要だと思う王安石では、い ずれ対立することは明白でしょう。

抜本的な改革をおこなうとなると、様々な批判を浴びることになりますし、ましてや社会通念からみておかしいと思われる事であれば後々の評価にまで影響して いきます。もっとも極めて頑固一徹な人物であった王安石のことですから、後の時代の評価というものはあまり気にしないのではないかとも思いますが。