まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ストルガツキー兄弟「神様はつらい(世界SF全集24所収)」早川書房

かつて早川書房から出ていた世界SF全集のなかにソ連のSFが収められた巻があり、そこに収められていたのがストルガツキー兄弟の「神様はつらい」で、日 本で2015年3月に公開されたアレクセイ・ゲルマン「神々のたそがれ」の原作にあたる作品です。SFというと地球より遙かに進んだ文明を持つ宇宙人が地 球へやってきたり、地球人とコンタクトをとるというものはよくあるとおもいます。一方で本作のように地球と比べて遅れた文明の世界へと地球人がやってくる というものもいくつかあります。

地球人の研究者がが他所の惑星へいき、現地の人々を監察し、その様子を地球に伝えるという任務を当初遂行していたのが、やがて現地の社会に入り込み、そこ で社会をより良いものへと発展させようという方向へと向かっていきます。そして主人公ドン・ルマータ(冒頭で出てくる少年アントンのその後の姿)はアルカ ナルにおいて知識人の排除を何とか食い止めようとします。

しかしアルカナルで起きている知識人排除や暴力的な集団の野蛮な振る舞い、クーデタといったことを止める力はありながら、そこに深く関わっていくべきなの かどうか、地球から来た人々は悩み苦しむことになります。歴史の発展法則や発展段階論といったものを知っている人達からすると、自分達が力によって介入し たとしても歴史の流れを変えられないと思っているところもあるようです。流れが変えられないからといって、目の前で展開されていることを見逃して良いの か、そこのところで葛藤をかんじているようです。

過去へのタイムスリップの場合、下手に関わることで歴史が変わってしまうということは良く話のネタにされますし、過去を改変しないように如何に関わるのか と言うことも話題にされます(以前NHKで放送されていた「タイムスクープハンター」のように)。しかし地球ではないどこか別世界へといき、そこが地球と 比べて相当に遅れた世界であるという設定のこの物語においては、当初は観察者として、やがて現地の社会に巧妙に入り込み、少しずつ発展させようとするとい うところは過去へのタイムスリップとの違いでしょうか。しかし、主人公が水浴びをしたり下着をきたりするなど、「文明人」らしい生活をもちこんでみてもな かなか変わる気配は見られず、「文明化」は決して容易ではない様子がうかがえます。

この作品が書かれたのはソビエト連邦の時代のことであり、歴史をどう見るかと言うことについてもマルクス主義的な歴史観に貫かれ、発展段階論や歴史の発展 法則、上部構造と下部構造、階級闘争史観と言った要素が直接的、間接的に盛りこまれているように感じました。強大な力を持ちながら、その世界への介入は 控えざるを得ないという設定は、過去に飛ばされる形の物語では容易に作りやすいかと思います。しかし過去ではなく、全く別の星に飛ばされたと言う場合に は、歴史の発展法則やら何やらといったマルクス主義的歴史観がこの話を成り立たせる上で効果を発揮しているように読めました。

最後にいたるまで、何か劇的な展開があるという話ではないのですが、結末は何とももの悲しく感じられる作品でした。映画の方はどう言う形で描かれているのか分かりませんが、見に行けるのであれば行きたいところです。