まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

絲山秋子「海の仙人」新潮社(新潮文庫)

宝くじで3億円をあてたのをきっかけに、主人公の河野は会社を辞めて敦賀に引越した。とりあえずアパート経営をしながら釣りをしたり、ヤドカリを飼育したりしながら過ごすかれのもとに居候を志願する神様・ファンタジーが現れます。

そこからなぜか神様と同居することになるわけですが、基本的に孤独で自分の殻に閉じこもる河野に、二人の女性が想いを寄せています。一人は彼より年上のか りんですが、河野は過去のトラウマから性的な事柄に興味がもてなくなっており、かりんとの間にもセクシャルな関係はなかったりします。もう一人はもと同僚 で豪快な雰囲気を感じさせる片桐で、つきあってる人は何人かいたようですが、河野にたいして片思いをしているようなところがあります。

神様と言っていますが、ファンタジーさんは何かができるというわけではなく、焼酎を割って飲んでいたり、運転しないのを良いことに麦酒飲んでいたり、雷を 止めて欲しいと河野が頼んだときのやりとりはどっかの会社の話でもしているのかと思わせるようだったり、とても人間くさい神様だったりします。そして、彼 は孤独な人や動物の側にいて、何か話を聞いているというくらいしかしていません。トキのキンと話したり、北海道のシマフクロウに呼ばれたと言って行ってし まったりしています。ファンタジーは決して誰かを助けたりはしないけれど側にいてくれるという事で、実は一番役に立っているんじゃないでしょうか。

河野とファンタジー、そして彼に思いを寄せるかりんと片桐、そして河野と関係のあった人々数名によって織りなされる物語は結構テンポ良く、話の途中ではか なり重い題材も出てきますが、重くなったりくどくならずに話が進んでいきます。セクシャルな話題や人の生死に関わることをあつかうと、ついつい泣かせよう というか深刻ぶった感じになることがありますが、そこについては最低限度の扱いにとどめています。最後の終わり方は、そのあとの2人の展開について色々な 想像を可能にしている、そういう終わり方でしたが、はたして河野はどうなるんでしょうか。刺激が強いわけではないけれども、何となく余韻が長く続くよう な、そういう本でした。