まずはこの辺は読んでみよう

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原随園「アレクサンドロス大王の父」新潮社(新潮選書)

アレクサンドロス大王の父親にして、エーゲ海北岸の弱小国家だったマケドニア王国をギリシアの覇権国家へと発展させたフィリッポス2世の評伝です。実は、 別の本(デモステネス「弁論集1」)の解説において、この本についてフィリッポスを礼賛している本であると言う形で紹介されており、「そんなかんじだった かな」と気になって読み直したという点もあります。

読み直してみると、確かにフィリッポスびいきと言いますか、フィリッポス2世を新しい世界への道を開き、ギリシアの平和、自由のために色々なことをやって いった人物という印象を与える書き方がなされた箇所が多くみられます。そして、彼のやったことについて、手放しで褒め称えているような表現も多く見られま す。

この辺のところは、果たして無条件にそこまで礼賛して良いのか、フィリッポス2世が果たしてギリシアの自由や平和を実現するために行動していたと単純に見 なして良いのか、引っかかるところもあります。しかし、フィリッポス2世は20年以上の年月をかけて強力な国家へと発展させ、ギリシアの覇権を握るに至ら しめた、間違いなく偉大な人物であり、フィリッポス2世無くして、アレクサンドロス大王の東征はできなかったわけですから、個人的にはアレクサンドロス大 王よりもよほど立派なのではないかと思います。

現在、この本は品切れ絶版中ですが、この本がでた年(’74年)から3~4年後にヴェルギナ王墓の発掘が始まったり、その後色々な遺跡の発掘や碑文史料の 発見によって、マケドニア王国の歴史については、新しい知見が日々増えている状態です。なので、本書で書かれている内容もかなり古くなっている部分はあり ます。フィリッポス2世について知りたい、というのであれば、また別の本を色々と読む必要かもしれませんが、できればフィリッポス2世マケドニアについ ての最近の研究成果について触れた解説を加えて文庫にでもなってくれるといいなあと思います。

本書がフィリッポス2世を礼賛する本となったのは、執筆当時の日本の状況に対する著者の問題意識によるところが大きいような気もします。個人的には、何と なく中公文庫当たりに入れるのが一番しっくり来る本です。講談社学術文庫や筑摩学芸文庫とはちょっと毛色が違う本ですね。