まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

サマセット・モーム(天野隆司訳)「昔も今も」筑摩書房(ちくま文庫)

時代はちょうどイタリア統一にむけて突っ走るチェーザレ・ボルジアがいた頃のこと、各地を制圧していくチェーザレのもとに、フィレンツェからマキャヴェリ が派遣されてきます。フィレンツェ政府がマキャヴェリを派遣したのは、フィレンツェチェーザレの手から守るためで、早速マキャヴェリチェーザレの間で 交渉がスタートします。そしてチェーザレマキャヴェリの「知的格闘」が始まります。しかし、それと同時進行でマキャヴェリが気に入ってしまった人妻を口 説き落とし自分のもにするための「痴的格闘」も展開され…。

チェーザレマキャヴェリとの間では、虚々実々・丁々発止のやりとり、息詰まるような交渉が展開されていきます。相手のちょっとした物言いや挙動から何を 考えているのかを考え、それに対し、その場で瞬時に次の手を繰り出さないと行けないという、その場にいたらきりきりと胃が痛みそうな展開です。そんなそぶ りを全く見せずに交渉を進める有能な外交官としてマキャヴェリが描かれています。この辺のやりとり、モーム自身の経験が反映されているのかもしれません。

一方で、中盤で物語のかなりのウェイトを占める、派遣先でマキャヴェリが気に入った人妻を口説き落とすために周囲の人間をどんどん巻き込みながら弄する ちょこざいな策をみていると、チェーザレとの交渉を進めているときとのギャップがかなり大きく感じられます。ただ、この本を読んでいても、マキャヴェリの 入れあげている人妻の人物描写は、これでよいのかという疑問が残りました。あまり描きすぎてもくどくなりそうですが、この人妻が冷徹な外交官マキャヴェリ を必死にさせるほどの魅力があるようには見えませんでした。

人妻を口説くために弄した策の中で、そこまでやるかと思ったのは、サン・ヴィターレ聖堂にお参りすると子宝に恵まれるという話をでっち上げた件ですね。 ヴィターレとヴィータがにてるからって、それは無茶だろうと思います。その他、彼女の周囲の人たちを巻き込み、外堀・内堀は埋め立てて準備万端整い、さあ 勝負だ、とおもったところでどうしても抜けられない仕事がはいるというところは、いまの日本社会の一場面としてもありがちですね。

マキャヴェリチェーザレの間で、丁々発止のやりとりが行われていますが、両者のやりとりの間に随所に盛りこまれる政治に関する話は、「君主論」にでできていることも多そうです(実際にこの話を書くときの下敷きにしているようですし)。

マキャヴェリとのやりとり、裏での情報把握、そして人心掌握術や反乱への対処等々をみていると、チェーザレはやはりただ者ではないですね。漫画「チェーザ レ」ではまだまだこの辺まで話は進んでいませんが、どのように書かれるのか楽しみです。漫画の話が出たのでついでに触れておくと、ミゲル(ミケロット)が 終盤出てきますが、漫画のイメージで読むとびっくりするかもしれません(全然違います)。

最後に一つ。マキャヴェリの従者として付いてきながら、途中まで空気みたいな感じのピエロが実は…、というのは何となく想像がつきましたが。