まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

イスマイル・カダレ「砕かれた四月」白水社

治外法権状態と言っても良いアルバニアの高地地帯、そこは現代になってもなお昔からの「掟」が支配する世界でした。人々はその内容がよいか悪いかと言うこ とは関係なく、とにかく「掟」には従って生きています。何となく、「ドルンチナ~」にでてくる「誓い」が当初の精神を失って形骸化するとこういう「掟」に なって行くような感じがします。それはさておき、その掟の一つに「血の復讐」があります(本書の後書きでは架空のこととなっていますが、実はこのような復 讐はアルバニアで現実に存在するものです。ここを参照)。

どのようなルールかといいますと、A家とB家があり、A家の一員がB家の誰かを殺すと、B家はA家の一族の誰か一人を殺す、そして今度はA家の一族はB家 の一族を殺す…以下繰り返し、というルールです。その間に休戦期間がもうけられたり、復讐を終えたらオロシュの塔というところに「血の税」という税金を納 めに行くことが決められていますし、復讐を果たした時に殺した相手の屍体に決まった姿勢をとらせることや、復讐者はそれと分かる印をつけること、さらに討 ち損じた時には罰金が化せられる事等々、事細かく「掟」によって規定されています。

そんな世界を舞台に、ジョグル、ベシアン、ディアナ、血の管理官と言った人々が登場し、ジョグルは「掟」に則り復讐を遂げますが、「掟」に対し疑問を感じ たり、「掟」に縛られた世界から抜けたいふしがある(空を飛ぶ飛行機や、外界からやってきた作家の妻ディアナを探し求めたりするのはその現れだろうと)人 物です。それに対し、ベシアンは「掟」に対し妙なロマンを抱き、ディアナは「掟」について疑問を発し、血の管理官はとにかく「掟」が遵守される事を願って います。読んでみて、誰か特定の人物が中心になっているのではなく、話の中心に「掟」があり、それを巡る人々の物語といった感じがしました。最後の方に 「掟」の体制がゆるんできているのかなと一瞬思わせるような描写もありますが、そんなに甘くはなかったですね。

世の中のルールや法律、体制に対する人々の姿勢も大体こんな感じなのではないでしょうか。その時々の状況に関係なく今そこにあるルールや体制の遵守を求め る人もいれば、それに疑問や不満を抱きつつも従って生きる人もいる、また外部から体制やルールについて色々と論じたりする人の中にも、安全地帯から好き勝 手言ってる人もいれば当事者にかなり接近していく人もいる…。そんな感じでこの物語の登場人物も分かれているような気がします。どの立場に立つのかは人次 第ですが、この物語において、彼らの立場を単純に「善」と「悪」に分けられると思う人はいないだろうと思います。