まずはこの辺は読んでみよう

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ジェフリー・フォード「白い果実」「記憶の書」「緑のヴェール」(国書刊行会)

ジェフリー・フォード幻想小説「白い果実」「記憶の書」「緑のヴェール」3つまとめてアバウトに紹介すると、「理想形態都市」とよばれる町の観相官クレイを主人公とする幻想文学、ということになります。しかし彼が観相官をしているのは「白い果実」盗難事件の解決のため辺境に派遣されたことがきっかけに始まる第1部の「白い果実」で、実は「理想形態都市」はこのときにぶっ壊れてしまいます。「理想形態都市」が崩壊した後、人々は新たにウィナウという町を発展させ、クレイはその近郊で薬草取りをやったりして町にそれを売りに行って暮らすようになっています。

 

そして第2部の「記憶の書」では前作から数年後という設定で、ウィナウの町の人々が感染した眠り病の特効薬の製法を求めて、クレイが「理想形態都市」の独裁者ビロウの意識の世界に入り込んだときの冒険の話が書かれていきます。このとき、ビロウも同じ病気に感染しており、それを何とかしてくれとクレイに頼みに来るのがミスリックスという魔物です。そのミスリックスが第3部の「緑のヴェール」では語り手となり、「彼の地」と呼ばれる世界を旅するクレイの話と、「理想形態都市」の廃墟にたたずむ魔物ミスリックスが何とか人間世界にとけ込もうとする様子が並行して語られていきます。

 

ちなみに、「緑のヴェール」とは、「白い果実」でクレイが辺境の地で出会い、一方的に惚れ、そして顔を切り刻んでしまったアーラという女性がかぶっていた物で、物語の最後でクレイの元に残された物です。クレイの元にこれが残されたのはなぜなのか、彼はずっと考えながらビロウの脳内世界や彼の地を旅することになるのですが、この「緑のヴェール」が最後の最後でミスリックスを窮地に追いやるアイテムになってしまうというのはなんともやるせないな。

 

ストーリー自体は本の見た目の割には、意外とすらすらと読めると思います。「白い果実」はクレイが辺境の地において独学で観相学をまなぶアーラという女性に出会い一方的にのぼせ上がったり、突然観相能力を失ったかと思うと復活したり、仕事をミスって流刑に処されてそこで改心し、ビロウを打倒しようとするといった筋ですが、これが一番話の筋に変化があるようです。その合間に何とも不思議なキャラクターや場面が挟み込まれていきます。

 

これに比べると次の2作は筋道はかなり単純になっており、話の流れを読んで楽しむという点では少々物足りないかもしれません。しかし不可思議な世界の様子はさらに色々書かれており(空を飛ぶ女の首とか、水銀の海、肉桂の香りのする猫等々…)、変わった世界を楽しむという点ではどの作品も十分楽しめると思います。で、この物語については主人公クレイの贖罪の旅という面もあるようで、それに関係のあるグッズ(緑のヴェール)も登場しますが、贖罪と言うことについてはなんか最後の方はうやむやというか、一寸とってつけた感じをうけました。

 

主人公のクレイですが、「白い果実」ではめちゃくちゃ自己中でやな奴で、それでいてへたれでヤク中でとまあろくでもない人なんですが、それが「記憶の書」「緑のヴェール」ではなんかずいぶんとまともになっていったような感じがします。とはいえ、あまり好きになれるタイプではないですね。また、クレイが贖罪を果たすべき相手アーラについても、正直なところあまり好きにはなれない(というより、感情移入させる材料がそれ程あるようには…)キャラクターでした。

 

独裁者ビロウは科学者にして魔術師とでも言えばいい存在(観相学も彼が確立したり、色々な物を発明しています)ですが、独裁者となる前にはかなり悲劇的な過去がある(妹を亡くしたり、自分がやらかしたことで恋人を再起不能にしてしまったり…)という設定は第2部になってからわかってきます。この話で一番気になるのは魔物ミスリックスです。魔物なのですがビロウの息子として育てられ、人間と何とかうまくやっていこうとする彼が何とか幸せになって欲しいなあと思いますが、あの終わり方ではどうなることか…。

 

やはり読むのなら3つまとめて読んで欲しい(その方が良くわかる)作品です。