まずはこの辺は読んでみよう

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ウォルター・スコット「アイヴァンホー」(上・下) 岩波文庫

ウォルター・スコットというと、近代歴史小説の祖とも言われ、19世紀イギリスのロマン主義文学の代表的な作家としてその名がよく取り上げられる人物です。歴史を題材とした数多くの作品を残し、その一つがこの「アイヴァンホー」です。

 

舞台はリチャード1世の時代のイギリス(厳密にはイングランドですが)、リチャード1世が十字軍の帰りにとらえられて国にまだ帰国していない頃、国内では征服者のノルマン人と征服されたサクソン人の関係はなお緊張状態が続いています。そんな時代に、王弟ジョン(のちのジョン王)の出席したアシュビーのトーナメントにおいて、一人の騎士が活躍します。槍試合で勝利し、集団戦でも辛くも勝利を収め、勝利の栄冠を受けたこの騎士は、実はサクソン人で、父セドリックから勘当され、リチャード1世の十字軍に従軍していたアイヴァンホーだったのです…。

 

その後の話はサクソン人の姫ロウィーナとのロマンス、トーナメントで負傷した彼を献身的に看病したレベッカを巡る話、黒騎士やロクスリーらの活躍する城攻めなど、いろいろな話が盛り込まれ、最終的には大団円を迎えることになります(レベッカに肩入れして読んでいると、ちょっとかわいそうですが)。

 

一通り読んでみると、主人公はアイヴァンホーなのですが、彼よりも周りの人物の活躍が印象的です。アイヴァンホーとロウィーナのロマンスといっても、既にこの二人が互いに好いていることが前提になってしまっており、それほど劇的な話ではありません。女性キャラでは、ユダヤ人のレベッカのほうが目立っています。

 

本書は冒頭にいきなりイギリスの歴史や風土についての解説があり、それから話が始まります。しかし話が始まってからも人物描写(後にアイヴァンホーについて行って活躍するウォンバ、ガースの風体について)が延々と続くなど、かなり冗長に感じられる部分もあります。また、本文中に歴史に関する小ネタが時々挟み込まれ(桃の食べ過ぎでによるというジョン王の最期の話など)、それもまた読んでいて煩わしく感じられることがあります。スコットの小説の欠点として、冗漫・重複・単調といったことがあるようですが(岩波文庫「大尉の娘」解説より)、本書においてもそう感じるところが時々みられました。

 

しかし、そのような部分があるとはいえ、非常に細かいところまで書き込まれた自然描写や人物像によって、かなりイメージがしやすくなっているところがあるのも確かだなと思います。何度か映画化もされたこの作品ですが、アシュビーにおけるトーナメントや、黒騎士(リチャード1世)やロクスリー(ロビン・フッド)らによるアイヴァンホー一行救出をかけた城攻めの場面を読んでいると、これは確かに映画にすると迫力があると感じさせられます。