まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

林田伸一「ルイ14世とリシュリュー」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史リブレット人の新刊の一冊は、フランス絶対王政の歴史で必ずでてくるルイ14世リシュリューです。タイトルを見て、なぜこの2人で一緒なのか、一緒にするにしても順番が妙ではないかという印象を抱きましたが、内容はリシュリューが先で、ルイ14世がつぎです。

本書では、「絶対王政」という言葉でイメージされる強大な王権というのは当時の実情からはかなりずれていること、様々な集団による制約から王の権力が解き 放たれていると見せたい、そういうイメージをもたせたいという願望の産物であるということの一端を示して行こうとします。その一例として、リシュリューは 今際の際に「国家の敵の他に私の敵はなかった」という言葉を残したとか、ルイ14世が「朕は国家なり」という言葉を発したという逸話が、後世の創作である ということが指摘されています。

ルイ14世というと最近では彼の時代の文化政策、表象関係でいろいろな本や論文が出されています(ルイ14世の戦争と芸術を題材にした本も出ていまし た)。本書でも、そういった関係の話は出てきますし、王が宮廷で権威を誇示する様子などもまとめられています。いかに強く、偉大であるかということを「見 せる」ことそのものに意味があり、当然そのための出費もかかるわけですが、これもただの浪費として切って捨てられないというところはなかなかに厳しいもの がありますね。

本書を読んでいて興味深かったことを一つ上げておくと、この時代において保護ー庇護関係がいかに重要であったのかということです。リシュリューの一族がい かにして宮廷でのし上がっていくのかということでマリ・ド・メディシスや国王に接近して保護ー庇護の関係を作り上げていくことに苦心している様子や、ルイ 14世の時代に力を持ったコルベールやルーヴォアといった寵臣たちが自分の子飼いのものたちを要職につけており、ルイ14世も彼らを媒介とすることで支配 を機能させていたことや、彼らの死は一家臣の死というだけでなく権力構造が激変するほどの大きな影響を与えるものだったことなどからもそれは明らかでしょ う。

その他、もう一つ興味深かったこととして「事件」の取り扱いについてふれておきます。歴史上様々な事件が起こり、それに対して興味を持つ人はいます。一方 でそういった個別の事件を扱うのは歴史研究の世界ではちょっと微妙な感じで見られているように感じる時もあります。事件をとりあげることが単なる好事家的 趣味でなく、政治や行政の組織化が不十分な時代の歴史研究では、事件の展開について知る上で非常に重要であるという旨の著者の主張は確かにそうだろうと思 います。

ある事件が、様々な関係性や構造を明らかにするということは往々にしてあるので、それを知る手がかりとして事件に注目することで成果をあげるということ は、これまでにもデュピィ「ブーヴィーヌの戦い」、グネ「オルレアン大公暗殺」といった本が、ある事件に注目し、そこから当時の社会構造などを解き明かす ということはありました。研究者の方々ももうちょっと事件史にも力を注いでみてもいいんじゃないかと門外漢は思ってしまいますが、どうなんでしょう