まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

イアン・ドースチャー(河合祥一郎訳)「もし、シェイクスピアがスター・ウォーズを書いたら(全3冊)」講談社

*タイトルが長すぎるので、全体的なタイトルのみを掲載しました。個別のタイトルは「まこと新たなる希望なり」「帝国、逆襲す」「ジェダイ、帰還せり」です。

昨年、エピソード7が公開された「スター・ウォーズ」シリーズ。もともとは旧三部作とまとめてよばれることになるエピソード4から6が先に公開され、その 人気により新三部作(エピソード1から3)が作成され、そのほかにも関連グッズやサイドストーリーなど幅広い展開を見せています。

当然、パロディのようなものもいろいろと作られますが、本書もそのような作品の一つです。シェイクスピアスター・ウォーズを書いていたが埋もれており、 それがのちに発見されたという設定で、旧三部作を描き出しています。「まこと新たなる希望なり」「帝国、逆襲す」、「ジェダイ、帰還せり」のうち、最近読 んだのはあと2つなのですが、今回、前に読んだものまとめて感想を一つにして書こうと思います。

ストーリー展開は映画とそれほど違いはありません。また、シェイクスピアの戯曲からとられたセリフが少し形を変えて用いられていたり、もってまわったよう な大仰なといいますか格調高いといいますか、映画と比べると台詞回しが随分凝ったものになっています。台詞回しということでは、映画でも独特の言葉遣い (倒置表現がおおいといわれる)のヨーダについては、575調の俳句のような台詞回しになっています。しかし、これが意外とはまっているように思います。

それ以外の点では、映画と舞台には色々な違いがありますが、特に登場人物がその場で何を考え、どのように思っていたのかということをセリフで表現し、登場 人物の思惑や心情についてもかなり深く掘り下げて語られているところが大きく違います。船を借り受けて使うことになる場面では、貸した側が誓いがくどすぎ て心配になるといったことが語られていたり、ヨーダにものを持ち上げてみろと言われたルークが大きすぎて無理だというときにもそのときの彼の感情が傍白の 形で表現されています。

そして、この傍白で思っていることを表現するということで一番目立っているのがR2-D2です。映画ではピーとかポキーとか機械の音しか発していないロ ボットですが、3作通じて彼(?)の傍白はじつに人間味に溢れています。バカにする人々やC3POに対し悪態をついたかと思うとルークのために頑張ろうと いうようなことを言ったり、イウォーク族の奮闘に心打たれたりと、色々な姿を見せてくれます。そして、「ジェダイ、帰還せり」でR2-D2の語るエピロー グにはちょっとした仕掛けがあります。書いてある文字列をよく眺めてみると、ああそうかとわかるものがありますが、原文でもちょっとした遊びがしてあった そうで、それを踏まえてのことなのでしょう。

また、映画では深く掘り下げられていなかった人物や動物、機械(!)についてもセリフが大幅に追加され、それによって物語の展開がより分かりやすくなった り、面白くなっている箇所があります。「帝国、逆襲す」に登場するランド・カルリジアンについては特に何故彼が途中で裏切ることになったのか、そしてその 後何故味方するようになったのかという過程がより分かりやすくなっていますし、セリフがあるはずもないAT-AT3体の掛け合いはコントそのものです。一 方でジャバ・ザ・ハットやイウォーク族など異種族のなかには独特の言葉がそのまま使われているものもいます。彼らが何を言っているのかは想像してみましょ う。

もとの旧三部作は様々な特殊効果を駆使して作られ、最近はコンピュータグラフィックを使って作成されるようになっており、そのために迫力のある画像が作ら れるようになっているのですが、それをどのように舞台で表現するのかは非常に気になります。読んでいると、かなり凝った造りの舞台だったということが想像 できますが、実際にやったらどういう舞台になったんでしょうか。ぜひ、今の世界でこれを上演して欲しいと思うのは私だけでしょうか。