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久保一之「ティムール」山川出版社(世界史リブレット人)

草原とオアシス、そして砂漠の中央ユーラシア、ここは騎馬遊牧民が強力な軍事力を背景に大帝国を築いていた世界でした。とくに13世紀に出現したモンゴル 帝国はユーラシアの大部分を支配下に置き、世界の「一体化」をすすめた勢力でした。そのモンゴル帝国が分裂していった後、ユーラシア世界にはモンゴルの影 響を受けた勢力が数多く現れたほか、チンギス・ハンの末裔たちが各地に国を作っていきました。

その中央ユーラシアで14世紀後半に強大化し、大帝国を築き上げたのがティムールです。生まれは決して高貴な家柄というわけではありませんでしたが、チャガタイ=ハン国の混乱のなかで勢力を拡大し、イラン、中央アジアなど広大な領土を獲得していきます。

そして、征服に伴う破壊や殺戮の一方でサマルカンドの町を整備し、大規模な建造物を遺し、この町を部隊に文化が栄えるといった繁栄の時代を築いたことでも知られています。そしてティムールが築き上げた新しい体制が以後の諸国にも引き継がれていくのです。

本書では、ティムール登場以前の中央アジアの状況から説明し、ティムールの業績をまとめていきます。ティムールが大義名分としてモンゴル帝国の再興と異教 徒討伐を掲げつつ、イスラムの信仰に対しては柔軟な姿勢をとっていた様子、ティムールの成功には遊牧民の軍事力、事前の入念な準備、そして彼個人の軍才に あるといった解釈、帝国統治における配置換えや複数同僚制的仕組みの導入や分封した皇子の権限を抑えるといった工夫が伺えます。また彼の優れた資質を伺わ せるエピソードもいくつか挙げられています。

そして最終章ではティムールの一族の家系の捏造について、どうやら生前からティムール家とチンギス・ハンの一族を何とか対等な立場、自分とチンギス・ハン 一族が近いと言ったことを示そうとしていた様子が伺えるといった話をとりあげていきます。ティムールが色々な形でチンギス・ハンの一族を意識し、それを利 用し、それに張り合おうとしていた点は後の時代にも引き継がれ、チンギス・ハンのヤサにティムールのトレ(慣習)を法律としてくわえたり、チンギス・ハン 家の歴史書を書かせたり、チンギス・ハンの血統に拘ったりという所にも現れているようです。

本書ではティムールの戦いについてそれ程詳しく解説をしてくれているわけではないのですが、ティムールの生涯、彼の業績といったことについてコンパクトに まとめられています。サマルカンドはティムールの時代に繁栄しますが、その繁栄は大規模な破壊や殺戮、強制移住と行った強権的支配の上に成り立っていたこ と、そして彼の帝国そのものは短命に終わりながらも、その後ムガル帝国などに引き継がれていったことなど、栄枯盛衰の歴史に少し思いをはせてみても良いの ではないでしょうか。