まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

青木道彦「エリザベス女王」山川出版社(世界史リブレット人)

テューダー朝エリザベス1世の時代というと、世界史の教科書ではイギリス絶対王政の時代として取り上げられてきたことでよく知っている人もいるのではな いでしょうか。当時の最強国家スペインをアルマダ海戦で破り、イギリスがこれ以後発展していったというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

本書はエリザベス1世の生涯と、彼女を支えた側近達の話をまとめていきます。エリザベス1世が強い個性の持ち主であること、そして側近達を使うことに長け ていたことがまとめられています。たしかにトマス・モアやクロムウェルなど側近や身近な人々を次々と処刑することになったヘンリー8世と比べ、エリザベス 1世の側近の中で処刑されたのはエセックスくらいです。

エリザベス1世を支えた側近達としては、武闘派(ただし才能は一寸どうかと思う)レスター伯や国政を2代にわたり指導したウィリアム・セシルとロバート・ セシル父子、情報網・監視網を張り巡らせ、陰謀摘発にあたったフランシス・ウォルシンガムといった人々がおります。こうした側近の間にも派閥があり、レス ター伯派とウィリアム・セシル派という分かれ方をしていたようです。こうした側近達をコントロールしながらエリザベス1世が君臨するような状態だったと言 えるでしょうか。

そして、エリザベス1世時代の大事件というとアルマダ海戦があります。これについて1章を割いていたりしますが、この辺はもうちょっと調べてもらいたかっ たなとも思います。確かにスペイン海軍はガレー船をもっていましたが、アルマダ海戦のときにはそれほどガレー船を使っていなかったような記憶があります。 それはさておき、アルマダ海戦と大陸情勢の関係などについてもまとめており、当時の状況を知るには十分な気もします。

アルマダ海戦は何となくエリザベス1世時代のピークのような印象を受けてしまいますが、この海戦が終わってまもなく彼女を支えた側近達の多くもこの世を去っていき、なんとなく彼女の宮廷も淋しくなったような印象があるからかもしれません。

その他、当時のイギリスの社会経済事情についてもまとめていたり、イギリスの宗教事情についても結構なページ数をあてています。一方で英国国内の政治、特 に議会関係の話はあまり出てこなかったりしますし、シェイクスピアなどこの時代に多くの劇作家が活躍していますが文化史関係の話はそれ程詳しくなかったり します。そう言ったあたりももう少し触れて欲しかったなとは思います。全体としての印象では、女王個人の伝記というよりも、エリザベス女王の時代のイギリ スについて、手堅くコンパクトにまとまった読みやすい本であると思いました。