まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

深澤秀男「西太后」山川出版社(世界史リブレット人)

清朝末期の権力者として長きにわたり君臨した西太后。彼女については様々な評価が見られます。海軍の費用を離宮改修に回すなどの浪費により清朝を滅亡に追いやった張本人、あるいは内憂外患に見舞われた清朝を半世紀に渡支えた女傑、そのような評価が見られます。また、現代の中国の生活文化に関わるところをみると、西太后に関連づけられた物も色々と残されているようです。

そんな西太后を扱った一冊ではあるのですが、本書は西太后ははっきりいってしまうとおまけのような扱いです。むしろ本書は副題に付いている「清末動乱期の政治家群像」というタイトルを前面に押し出すべきだった一冊です。

内容としては、太平天国の乱、洋務運動、日清戦争変法自強運動、義和団事件といった清朝野激動の時代において、当時の政治家達を紹介しつつ、彼らがどのような考えをもって行動したのか、それを紹介することを首都しつつ、その合間に西太后の動きを関連づけていきます。

しかし、どうしても西太后をタイトルで出していながら、内容からするとおまけのような扱いにしかなっていないという点が気になります。激動の清末において西太后がどのような役割を果たしていたのか、彼女の存在が中国の歴史においてどのような意味を持つのかと言うことは正直なところわかりにくい本です。

「世界史リブレット人」は「人をとおして時代を読む」ということで、だいたいが1冊につき一人ないし2人で扱われています。本書では洋務運動や変法運動に関わった数多くの政治家、学者、軍人について、彼らの人となり野説明と政治に対する関わりなどが色々とまとめられていて、それ自体は非常に興味深いものがあります。「戊戌の六君子」それぞれについての解説や、日清戦争で戦った軍人のことまで書いてあるなど、なかなか面白いところはあります。しかし、これだったら、「清末政治家群像」という感じのタイトルにしておくか、あるいは「西太后と清末の政治家たち」といった感じで良かったのではないでしょうか。西太后を前面に押し出してしまったタイトルと、扱われている内容の差に違和感を感じました。

なお、いくつか読んでいて大丈夫かと心配になったところもありました。李鴻章がマカートニーに相談したという話があり、マカートニーに注が付いているのですが、これはどう考えてもどこかで何かを間違えただろうとしか言いようがない事態が発生しています(マカートニーの生没年が明らかに洋務運動から外れる)。また、光緒帝と妃の関係についても、読むと意味がとりにくい箇所がありました。皇后である謹妃という表現がありますが、皇后と謹妃は別人賭してかかれている箇所が直前にあります。このあたり詳しい人に聞きたいのですが、別だったと思うのですが。それと、イェヘ=ナラ氏の呪いは確か後世に作られた伝説で、実際には清の皇帝の妃にけっこうイェヘ=ナラ氏の人がいるはずなのですが、その伝説を無批判に載せいてるのもまずいかなと。

西太后の本として自信を持ってお薦めする、とは正直なところ言いにくい本ですが、清末の政治家についての紹介本として読むなら意外とおもしろいのではないでしょうか。

追記(6月30日)
どうも清末の政治家の紹介としてもちょっとこれはまともに扱えないんじゃないかというレベルでまずい本ではないかという指摘を見かけました。誤記、根拠の怪しい表現や語彙などのオンパレードということで。これを「今月のお薦め」に入れるのは正直はばかられるのですが、一応、このシリーズの感想は全部アップすると言うことにしているので載せておきます。

それにしても、これだけ出来の悪い本をそのまま出してしまったのはまずかったんじゃないでしょうか。