まずはこの辺は読んでみよう

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中田一郎「ハンムラビ王」山川出版社(世界史リブレット人)

ハンムラビ王というと、バビロン第1王朝の王様として、ハンムラビ法典を制定したと言うことは世界史の授業でも普通にならうことです。そんなハンムラビ王についてコンパクトにまとめた一冊がでました。

まず、ハンムラビ王が登場するまでのメソポタミア情勢についてのまとめがあり、バビロン第1王朝を建設したアムル人がどのようにしてオリエントで力を持っ ていったのか、そしてウル第3王朝からバビロン第1王朝までの間の諸国興亡史となっています。もともとは遊牧民だったアムル人達が傭兵や労働者としてメソ ポタミアに流入し、やがて彼らが国を建設していく様子がまとめられています。

その後、ハンムラビによるバビロニア統一の過程が扱われています。当初上メソポタミア王国のシャムシ・アダド1世の宗主権のもとにおかれていたハンムラビ が、上メソポタミア王国崩壊後の混乱のなかでハンムラビがどのようにして統一していったのか、当時の外交文書などを用いながら示していきます。領土を巡る 外向的駆け引きが文書として残っているため、ある程度のことは分かるようです。そしてハンムラビが統一に向けて動き出すのは隣接する大国エラムを撃退した ことがきっかけだったと考えられています。

続く章ではハンムラビによる灌漑事業、そして正義の維持者として法典も制定し、さらに裁判において自ら裁決を下すこともあるハンムラビの姿が描かれていま す。国家防衛、法条の確保、そして社会正義が王の責務であるという考えはウル第3王朝のころより現れ始め、ハンムラビ法典以前に制定されたメソポタミア諸 法典の流れの中でハンムラビ法典がつくられたこと、社会の変化が其れまでの法典になかったこと(自由人のなかでも身分差があること、被害者救済のほかに刑 事罰の強化といった要素が見られること)が取り上げられています。

ハンムラビ登場までのメソポタミア情勢について手軽に手にとって知る事ができる本はありがたいです。古代史ということで、どうしても史料的制約があり、彼 の家族のことなどはほとんどわかりませんし、幼少期の事柄など彼の〈伝記〉としてみるとどうしても埋めきれない事柄は出てきます。しかし、手紙に描かれた ハンムラビの姿は、時と場合によっては自ら裁定を下したり苦情を聞き入れるなど、社会正義という王の責務を果たそうと努める王の姿の一端が示されており、 ハンムラビ王個人の話もなかなか興味深いです。そしてなにより、単にバビロン第1王朝の王としてメソポタミアをまとめたとさらっと書かれていることの背後 に、実は周辺国との駆け引きと武力による征服と言った膨大な出来事があったということもわかります。教科書ではほんの数行ですませてしまうような事柄で も、その背後にはこれだけの事柄が存在しているということがわかるだけでも勉強になります。