まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

長沼秀世「ウィルソン 国際連盟の提唱者」山川出版社(世界リブレット人)

アメリカ合衆国大統領ウィルソンというと、国際連盟の結成を提唱した人としてしられています。本書ではウィルソンが生きた時代の背景にも触れながら、学 者・大学人としてのウィルソン、政治家としてのウィルソン、そして大統領となってからのウィルソンについてコンパクトにまとめています。

個人的には、ウィルソンが若い頃は保守的な立場だったと言うことが意外でした。ウィルソンについて世界史の教科書で扱うとすると、まずは革新主義の流れで ふれています。確かに彼は革新主義の政治家としての活躍が目立つのですが、若かりし頃は意外と保守的な見解を持っていたようで、女性参政権や連邦所得税、 シャーマン反トラスト法といったものに反対したり否定的見解を述べています。

そんなかれがニュージャージー州知事になったときにはユダヤ人への偏見が強い時代に州最高裁の判事にユダヤ系人物を任命し、工場の労働条件に関する様々な 法案を通していくなど革新的な政策を展開していきます。そして革新的な候補者を求める民主党の大統領候補者に選ばれ、大統領選挙を勝ち抜くのですが、彼が 革新主義の流れに変わっていくきっかけが何だったのかをもっとはっきり書いた方が良かったのではないかと思います。

大統領としてのウィルソンの業績についてはかなりまとめられていて、連邦準備委員会(FRB)のもとになる体制がこの時代にできあがったことは恥ずかしな がら初めて知りました。外交については、立憲政治(それも国民の自由な意志によって選ばれた政府によるもの)以外は認めない、そうでない国には介入してい く、まるで今のアメリカの対外政策と相通じる姿勢がこの時代には既に見られることも分かりました。

その他、第1次世界大戦期のアメリカの戦争体制構築や参戦に到るまでの経緯、戦後のヴェルサイユ講和条約に関する話などもまとめられています。