まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

大内宏一「ビスマルク ドイツ帝国の建国者」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史リブレット第1回配本の4冊目です。今回配本された5冊の中で唯一近代をあつかった巻でもあります。

構成としては、ビスマルクがどのような状況のもとでプロイセンの指導者となることができたのか、どのような状況がドイツ帝国建国を可能としたのか、彼が作 り出し指導した国家がどのような性格のものでどのような状況を生み出したのか、この3点について答えていくという形をとっています。最初のプロイセンの指 導者になるところ、次のドイツ帝国建国、そして建国後の国家運営とこれによって生じたもの、という具合に、実はちゃんと時代順に並んでいたりします。

第1点については、高級官僚への道からドロップアウトしたビスマルクが政治の近代化(議会・新聞・協会といった近代的政治手段)の流れに乗るいっぽうで君 主制支持の保守派に属し、また保守派であり君主に忠誠を誓う一方で国家利害を重視して正統主義信奉者の保守派とは違う立場をとるという具合に、彼の立場や 行動には二面性があることが指摘されています。

第2点については、クリミア戦争後の国際情勢変化(オーストリアの孤立化、ロシアの「大改革」専念)、ドイツの工業化進展(オーストリアとの格差拡大、軍 制改革資金の増加)といった事情にくわえ、ドイツ統一に関わる3つの戦争についても、ビスマルクが意図的に有利な状況を作り出したというよりも、たまたま 生じた状況を巧みに利用してドイツ統一を達成したということがまとめられています。

第3点については、新たに建設されたドイツ帝国が非常に複雑な構造を持つ国家であったこと、そのような国家をビスマルクがどのように運営していったのか、 さらに外交関係についても書かれていきます。ビスマルクというと巧みな外交という事が良く取り上げられますが、それについても彼が用意周到に準備していた というより、周囲の状況の結果というところがあるようです。

通読してみて、本書ではビスマルクの業績について、彼が意図してそのような方向に導いたということよりも、周囲の状況を彼が巧みに利用した結果としてみて いるような感じがします。伝記というとある特定の個人を英雄視してしまうところがありますが、当該人物が生きた時代のなかにきちんと位置づけができている 本書のような伝記が本来あるべき物なんじゃないかなと思いますね。

本事態の感想とは違いますが、このシリーズについてすこし。巻末を見ると、これだけに執筆者一覧とリストが載せられていました。現時点で未定という物が2 つあるのですが、果たして執筆者は見つかるのでしょうか。また、個人的には、実はこの企画自体はかなり前から動き出していたものの、ある程度のところで見 切り発車したのかなという気もするので(バーブルの巻末のコメントがそういう風に思う根拠です)、そうだとすると執筆者がこれから見つかるかどうか微妙だ なあと。まあ、だれかに無理して書いてもらうんだろうけれど。