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池谷文夫「ウルバヌス2世と十字軍」山川出版社(世界史リブレット人)

ローマ教皇ウルバヌス2世というと、十字軍について扱うときには欠かすことのできない人物です。彼が十字軍を呼びかけたことが、2世紀にわたり地中海東部を舞台に展開された十字軍運動の始まりとなり、十字軍運動は武力衝突のみならず巡礼、交易など人の移動や物の流れの活発化を伴うものでした。

本書では十字軍運動の始まりに関わったウルバヌス2世について、グレゴリウス改革の継承者であるウルバヌス2世と神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世の衝突、「神の平和」運動や十字軍を通じた教皇権や教会の地位向上、勢力拡大といったことをまとめています。

ウルバヌス2世をとくに前面に出さなくてもまとめられる内容であると感じますが、ウルバヌス2世に対してハインリヒ4世が擁立した対立教皇クレメンス3世がいたこと、皇帝と教皇の争いが結構長い間続いていたこと、十字軍のような軍事遠征はグレゴリウス7世の時代に既にアイデアはあらわれていた等々、興味深い事柄も載せられています。

淋しい晩年を迎えた君主や政治家は多くいると思いますが、ハインリヒ4世の晩年もその一つに数えられるでしょう。教皇との争いが続く中、妻も子ども達も教皇側に立ち、再婚した妻から告発され、息子達は反抗と、ハインリヒ4世の晩年は、これでもかとばかりに苦難が降りかかるという展開になっています。

中世ヨーロッパ世界におけるローマ教皇の権力、カトリック教会の勢力が拡大していく時代について、大まかに抑えたいときには丁度良さそうな気がする一冊でした。ただし、伝記的な内容を期待するとそれはあまり出てこないので、要注意です。ウルバヌス2世という個人について深く掘り下げながら、中世ヨーロッパ世界について描き出すと言うよりも、彼が関わった出来事について色々と書き、そのあいまにウルバヌス2世が顔を見せる、そういう印象を受けました。