まずはこの辺は読んでみよう

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高木智見「孔子 我、戦えば則ち克つ」山川出版社(世界史リブレット人)

孔子の仁とは一体何か等々、孔子の思想については色々な考え方があるように思います。そして孔子の思想に関する研究も非常に多くなされていますし、最近も 出土史料をもとにした研究が進められているようです。100頁弱という本書ではどのように孔子を扱っていくのでしょうか。

本書では、孔子が生きた春秋時代とはどのような時代だったのかを簡単にまとめ、仁とは何かと言うことを軽く触れたあと(仁とは人を人として扱い、愛し思いやる態度のこと)、普通ではなかなか見かけない内容が展開されていきます。それは、春秋時代の軍事にかんする事柄です。

春秋時代の軍事や戦争についての特徴をいくつか挙げてあり、君主も戦場では一人の戦士として戦っている、戦士としての誇りや武勇に優れた者に対する敬意が ある、そのようなことが挙げられています。軍事、戦争に対して関心が集中した春秋時代は、すべての書物は兵書と見なされる時代であったようです。

そして、孔子とその関係する人々についてもとりあげられ、彼の弟子についてもその武勇を扱ったエピソードが色々と残されています。孔子および彼の弟子とい うと書生であり武勇とは無縁のようなイメージがありますが、彼らもまたこの時代に生きる人物であったと言うことがよく分かります。そして、「軍礼」とよば れるものが春秋時代には存在し(「宋襄の仁」という言葉がありますが、それも当時の戦争観によるところであったという)、戦争に関するある一定のルールが あったようです。そしてこの「軍礼」には孔子のとなえる「仁」に通じるものがあったようです。

しかし孔子の時代には伝統的な封土、祖先観念といったものが崩れ始めていた頃でした。そして戦国時代となると戦いも、貴族とそれに従う人々が戦士として戦 う時代から徴兵で集められた農民が兵士となる時代へと移行し、そこでは手段を問わずに勝利することを求められるため、かつての貴族が戦士として戦っていた 時代とは全く違うものとなっています。かつての古き良きルールが失われていく状況下であったからこそ孔子が「仁」の思想を唱えたのだということが本書の結 論でしょう。

孔子の伝記として読むと、相当変わった構成となっていますし、私も出版社の紹介文を見ただけではこれが一体何の本なのか理解できませんでした。しかし孔子 が「仁」の思想を唱えるようになる背景を理解することで、彼の思想について深く理解できるようになるようにおもいます。また、春秋時代の軍事についてコン パクトにまとめていると言う点でかなり貴重な本ではないでしょうか。