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小泉徹「クロムウェル」山川出版社(世界史リブレット人)

17世紀半ばから後半のイギリスにおいて、一時王政が中断し共和政になった時期がありました。この時期に権力を握っていたのが護国卿の地位についたクロム ウェルで、彼についての評価は毀誉褒貶が非常に激しいものがあります。そもそも彼が議会派の一員として活躍し、国王チャールズ1世を打倒、処刑に至らし め、共和政への移行をもたらした出来事についても、「ピューリタン革命」「イギリスの内乱」「三王国戦争」など色々な言い方がなされています。

本書ではそんなクロムウェルについてコンパクトにまとめた伝記です。議会におけるプロテスタント改革派(一般的にピューリタンと表記されている物ですが、 本書ではそれを敢えて採用していません)のなかで強烈な反国教会・反カトリック意識をもちかなり急進的な立場にいたクロムウェルが、国王派との戦いにおい て新型軍を率いて活躍してのしあがる過程、そして護国卿時代のクロムウェルの政策をまとめています。王を処刑した後のクロムウェルですが、プロテスタント 改革派の理念と古来の国制の理念の間での苦労の様子がかなり詳しく描かれているように感じました。この過程で議会と対立したり、後には軍とも距離ができて しまうなど様々な対立も生じていたようです。

軍事面でのクロムウェルについては、極めて優れた才能を示し、成果を上げたと言えるでしょう。新型軍の指揮官として戦果を挙げるだけでなく、戦時体制の整 備(醵出金の徴収や軍需物資の確保)にすぐれ、軍事経験はなかったものの当時出回っていた軍事技術書からさまざまなものを学び実地に役立てる姿勢をもち、 宗教的信念を重視し社会階層を無視した兵の徴集をおこない、兵站を重視し、規律を現世にし、傷病兵の扱いも看護や後方輸送をしっかり行うといった具合に、 軍の指揮官として優れていたことが示されています。

彼の率いた新型軍が従来のヨーロッパ諸国の軍と異なり、近代の国民国家で動員された軍に近い性格(イデオロギーを基盤)をもっていたことも注目に値するこ とだと思います。それが強みにもなっていたようですが、レヴェラーズの影響力を受けやすいという所に弱点もあったようです。